エピチャン

2012/01/05

昔、新卒で入った会社で、営業成績のいい者だけを集めたパーティーに招待されたことがある。

当時の僕はまだ22で、パーティーのパの字も知らない小僧だった。
僕の知っているパーティーなんて、暗がりのダンスフロアで夜な夜な開催される、
アンダーグラウンドなパーティーくらいだった。

招待状に「私服で来てください」と書いてあったので、僕はバカ正直に、
チェックのシャツにジーンズというどカジュアルな服装で赴いたのだけど、それで死ぬほど大恥をかいた。
パーティー会場では、僕の同期や上司や重役の方々が銘々にドレスアップをしていて、
いわゆる「ちゃんとした私服」を着ていた。
僕だけが不釣合いで場違いだった。絵ヅラを想像しただけで目まいがした。
その場から一刻も早く姿をくらませたかった。しかし不幸なことにそれは海の上だった。
華やかな船上パーティーの渦中で、僕はできることなら海に逃げ込みたかった。
それが思わず、ビンゴゲームの景品で PRADA のバッグまで引き当ててしまう始末で、追い討ちの辱めを受けた。
こんなもの要らないから勘弁してくれ、と祈った。
あんなにも酔えないシャンパンを飲んだのはその時がはじめての経験だった。

以来、僕はドレスコードというものにひどく敏感である。
パーティーに相応しい自分なりの正装をすることは、最低限の大人のお洒落でありマナーである。
間違ってもチェックのシャツにジーンズにスニーカーなどで出向くべき場所ではない。

そしていくらかの歳月が流れ、僕もわりと大人になった。
30歳の僕は基本的に(フォーマルのドレスコードでない限り)パーティーでネクタイを締めない。
でもそれは僕なりの、祝うべきパーティーへのオマージュ(敬意)でもある。
ポケットチーフを胸に差し、カフスボタンで袖を留め、足元はドレスシューズを履く。
それはあの日の悔しくてほろ苦い羞恥を踏襲した、僕なりの正装なのである。

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