エピチャン

2011/06/29



僕は多くのことを忘れている。「忘れていること」も忘れている。
この曲を聴いていたのは確か25~6の頃だった。
順風満帆だった僕の人生の歯車が狂いはじめ、仕舞いにはバラバラに崩れ落ちた頃だ。

僕はこの当時のことを驚くほど忘れている。
当時一緒に暮らしていた女は3つ年上で、僕には到底ふさわしくないほど美しい女性だった。
しかも彼女は料理が美味かった。彼女が作るミートドリアの味は格別だった。
人参の食べられない僕に隠れてこっそりと人参を摩り下ろしてスープに入れていた。
夜中にふたりで寝巻きのままマクドナルドに行ってアイスクリームを食べた。
腕にはいつも最高の時計をしていた。
僕は彼女を愛していた。愛していたことすら忘れていた。

そして今、メロディーとともに思い出す。
別れを選んだ僕が先にこの部屋を出て行くと決めた。最後の夜にはベッドもない部屋でふたりセックスをした。
後には何ひとつ残らなかった僕たちの時間を、あの日の彼女の腕時計は確かに刻んでいた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブログ アーカイブ

自己紹介

自分の写真
ご意見、ご感想はepidence[at]gmail.comまで。