エピチャン

2014/06/22

何を考えているのか分からない人っている。僕もよく言われるけど。
僕が23~4の頃に付き合っていた女の子が正にそれで、僕は彼女が何を考えているのか、最後までさっぱり分からなかった。
自分の想像力の範疇に及ばないタイプの女の子だった。

彼女は当時、女子大生をしていて、痩せ型で二の腕が細く、見た目は大人っぽくて本当に飛びっきりの美人だった。
名前の通り、美しく聡明な人で、特技はピアノ。彼女は僕にドビュッシーのアラベスクを弾いて聴かせてくれた。
しかも彼女は歌が上手かった。声に色があって、いつの間にか聞き入ってしまう。そのことを誉めると、「家で練習している」と言っていた。
夏の日には、背番号のついたタンクトップとか着てくる。おいおいデートだよ?バスケの試合じゃないぞ?と心の中で突っ込む。
美人過ぎるのに、至近距離で見ると口元にうっすらと産毛が生えている。え?ってなる。天然なのかな?
彼女は昔のバイト先の後輩で、彼女が高校生の頃から知っていて、当時から僕に対してずっと敬語を使っていた。
「もう敬語じゃなくていいよ」と僕が言うと、彼女は突然「わかった」と言って、いきなりすごくフランクなタメ語になり、僕のことをチャン付けで呼び始めた。

花火大会の日には、真っ白の浴衣を着て現れて、本当に花火なんかよりも何倍も綺麗で華があって、彼女は美しかった。
最後の花火のフィナーレを見終えた後、ふと僕が彼女の横顔を見ると、真顔で大粒の涙をボロボロこぼして号泣していた。
驚いて「どうした?」と聞くと、「ごめん、感動して」と口を抑えた。その仕草が、花火よりも何よりも僕の心に焼き付いた。

そんな彼女と僕は別れた。
それから数年ぶりに彼女と再会をしたとき、ドライブに行った。
ひとしきり楽しんだ後、帰り際にふと彼女は僕に言った。「ねえ、私達って、何で別れたんだっけ」。
僕は答えることができなかった。僕達の別れた理由を、二人とも思い出せなかった。そして二人で笑った。
すべてはもうとっくの昔に終わっていたのだから。ふたりが別れた言い訳のような理由は、もうこの世から永遠に消えてしまった。
彼女を家まで送り届け、僕達はそこでサヨナラをした。

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