エピチャン

2013/07/27

昔、僕がまだ中学生の頃、母が場末のスナックで働いていて、そこの常連のお客さんの話をしてくれた。
そのお客さんは、お店で「先生」と呼ばれていた。年齢はもう70~80代、小柄で痩せ型のおじいちゃんだ。
いつも独りで飲みに来る。哀しいことに生涯独身だった。
「先生」は、店の女の子に「一杯もらっていい?」と言われると、いつもニコニコしてOKしたらしい。
下心など微塵もなく、ただ話を聞いてはいつもニコニコと。そういう人柄だったんだろう。

ある日の深夜、そのスナックの近くの路上でひき逃げ事故があった。スナックのママが調べてみたら、その「先生」だったそうだ。
「先生」はスナックの帰り、酔って歩きながら一人暮らしの部屋に向かう途中、道路を横切った際にスピード違反の車に跳ねられたらしい。
灯りの少ない、暗い国道のカーブだった。「先生」は、その場で間もなく亡くなったそうだ。

この話を聞いたのはもう20年近く前だけど、今思い出しても涙が出る。
僕は「先生」に会ったこともないけど、あまりに哀しい人生の結末で、同情してしまう。
僕は思う。究極を言うと、男が求めてるものって、金でもセックスでも、地位でも名誉でもなくて、ただ話し相手なんじゃないかって。
人生の最終章で「先生」が求めたものは、ただそれだけだったんじゃないかって。

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