エピチャン

2011/01/25

先日、古い友人との邂逅があった。

何でも出張で福岡に来ていたらしく、ケータイに着信があった。
偶然にもお互い博多に居合わせたので、博多駅に待ち合わせる。
数年ぶりの再会だけど、彼は数十メートル先の雑踏から僕の存在がすぐに分かったと言う。
「一杯飲もうか」という話になり、駅前のやきとり屋でビールを飲んだ。

「最近どう?」と彼が聞くから、「相変わらずアウトローだ」と答える。
僕のこの金髪がアウトローな生き方を象徴しているとも言える。
「俺も昔はアウトローだったんだけどな」と彼は笑った。
それを格好悪いとは言わない。だけど僕は言わない台詞だと思った。


僕の知っている昔の彼は、若かりしころ東京でパティシエを志したが挫折し、
居酒屋でアルバイト漬けの生活になり、最終的に住所不定無職となった。
文字通りアウトローな生き様だったのだが、どこかで守りに入ってしまったらしい。
彼は今、宮崎の片田舎で郵便局員をしている。

僕は一度、彼の住む町まで彼に会いに行ったことがある。
鬱病がひどかった頃に東京を飛び出して、会っておきたい友人を訪ねて全国を旅したのだ。
彼が住んでいたのは、宮崎県小林市。
山あいにある枯れた町で、特急電車にも見放され、駅前には吹けば飛ぶような小さなロータリーがあった。
クラブも、ダーツバーも、ケンタッキーすらもない。
テクノが好きだった彼が、そんな町に根を下ろして暮らしている事がにわかに信じ難かった。
でも温厚な性格の彼には合っているのかもしれない。
あの日、彼は僕にイマイチ味の冴えないラーメンを奢ってくれた。
それが何だかとても沁みた。


やきとり屋のカウンター。
ひと通り互いの近況を語り合った後、ビールを飲みながら僕が聞いた。
「今、幸せ?」
「今は実家で、洗濯も飯も親がやってくれる。十分幸せだよ」と彼は言った。
それは明らかに、僕が思い描く幸せとは対極に位置していた。
いつかの時代、僕らは職場で働き、同じ釜の飯を食い、同じ方角に幸せを見つめていた筈だ。
しかし今は全く別の方角の幸せを見ている。当前のことかもしれない。
そう思うと少しだけ悲しくなったけど、邂逅とはそういうものだ。
彼が幸せならそれが一番だ、と思った。

博多駅の改札前。
「また二年後くらいに会えたらいいな」 「じゃあ、また二年後に」
僕らはそう言って握手をし、笑顔で別れた。

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